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第14回情報通信学会論文賞

平成24年度第14回論文賞に下記の論文が選定され、平成25年6月22日、東洋大学で開催された第30回学会大会総会において表彰状と副賞が贈呈されました。

<優秀賞>

林 紘一郎 氏
「Privacy とPropertyの微妙なバランス:Post 論文を切り口にして Warren and Brandeis 論文を読み直す」
(情報通信学会誌104号掲載)

【受賞理由】

本論文は、「W&B論文(1890)」と通称されるプライバシーの権利に関する画期的な論文の刊行百年を記念して発表された様々な論文のなかから、R. Postが1991年に発表したW&B再考論文を中心に今日的課題でもあるプライバシー問題の解釈について論じるものである。人格的利益保護の観点からの分析だけではなくプロパティ概念にも着目し、従来検討がなされてこなかった視点を提示した。プライバシーを財産権の一種として定位することを目指す提案は、優れて現代的な問題についての考察の方針を提唱する基礎となるものである。情報法分野における古典ともいえるW&B論文の今日的意義を見出しており、有効性、新規性、信頼性、論理性があり、当学会の優秀賞にふさわしいと認められる。


佳作

  • 斉藤邦史氏
    「肖像情報に関する権利利益の諸相」(情報通信学会誌104号掲載)

    【受賞理由】

    本論文は「肖像権」という新概念が成立しうるかが論点とされた3つの最高裁判例の理論的根拠を整理したものである。警察官の捜査における写真撮影の適法性 が争われたケースでは「私生活上の自由」が、写真週刊誌のカメラマンが法廷で被告を隠し撮りしたケースでは人格的権利が、歌手の写真が週刊誌の記事で使用 されたケースでは「パブリシティ権」の侵害が論点となっているなど、肖像権をめぐる諸相を明らかにした。論旨の明快さと信頼性、検討分野の新規性・有効性 の観点から評価して佳作と認められる。

  • 山口翔氏、植村要氏、青木千帆子氏
    「視覚障害者向け音声読み上げ機能の評価―電子書籍の普及を見据えて」(情報通信学会誌103号掲載)

    【受賞理由】

    本論文は電子書籍が普及する時代を見据えて、日本でいかにして書籍の音声読み上げ環境を実現するかについて検討している。利用可能な文字の音声読み上げ機 能を有するビューア、公共ウェブサイト、支援機器計9種を用いて視聴覚障害者と健常者がともに実験をし、その結果を比較するとともに、音声読み上げ機能を 起動する以前の段階において、視覚障害者が単独で操作できないなどの問題があることを指摘した。研究分野の先見性、独創性、視覚障害者への有用性の観点か ら評価して佳作と認められる。

おめでとうございました。